著者:野中郁次郎
発売元:中高口論新社
目次
第1章 存在の危機
第2章 新たな使命の創造―水陸両用作戦
第3章 教義の実践―南太平洋方面作戦
第4章 教義の革新―中部太平洋方面作戦
第5章 革新への挑戦―水陸両用作戦を超えて
第6章 組織論的考察―自己革新組織
感想
その歴史から、組織的特徴などなどが色々細かく書かれております。
ちなみに、海兵隊というのはアメリカの他の三軍(空陸海)とは違い、きっちりした目的があって誕生した軍隊ではないわけで、さらに言うと「で、あんたたちなにやってるの?」「そもそも、存在が意味なくないですか?」と、扱われてしまうような存在だったわけですよ。
大統領からもね。
なのに、今やアメリカ軍最強の軍隊と言われ、世界中で行われているアメリカの戦争の最前線に投入されているわけですよ。
なんで、ペリーのお供で日本にやってくるくらいしか仕事のなかったアメリカ海兵隊がそのような組織になったのか?そのへんが詳しくこの本には書かれております。
で、そんな本書の中には刺さることがたくさんありまして、そのなかの65ページ
このような自ら招いた大虐殺を生み出した根拠はなんだろうか。その答えの一部は当然のことであるが、一木大佐の情報不足であろう。しかし、もっと重要なことは彼の傲慢な現実無視、固執、そして信じがたいほどの戦術的柔軟性の欠如ではないか。
まぁ、思い込みすぎてもダメってことよね。
目的と手段を間違えてしまうことが、いや、人が、この国には多すぎるってこった。
それは昔も今も同じ。
あと、167ページ
組織が過剰反応に陥らず、絶えず革新への挑戦を行っていくためには、組織が基本的なものの見方、認知枠組、思考提案を日常的に創りかえるプロセスを制度化していることが重要である。海兵隊の場合、そのための仕組みが2つある。まず、海兵隊司令官が推薦図書を公表し、隊員全員に議論のきっかけを提供する伝統がある。これは他の軍隊には(おそらく民間組織にもめったに)見られない稀有な仕組みである。さらに開閉体将校向け月刊誌Marine Corps Grazetteは「アイディアと争点」という自由投稿の紙面を中心に構成され、そこでは毎号10前後の論文が、軍事理論、戦略、戦術、戦闘技能などを論じながら、海兵隊のあり方をさまざまな視点から絶えず見直している。この雑誌の最後のページに載っている編集方針によれば、この紙面の目的は「自由な議論とアイディア交換の場を提供し、思慮に富む投稿を通じて毎年多数の海兵隊員が海兵隊の進化と進歩に貢献するアイディアを提起できるようにする」ことであり、「それらに対する反論・意見・補論は建設的なものでなければならない」と付記されている。
やはり、流れない水は腐るじゃないですが、組織は変わり続けなければダメであって、そんな変わる仕組みをきっちり仕組化しないともっとダメなわけですよ。で、その仕組というのも分かりやすくなきゃダメで、そうしないと変わらなくなってしまうということですな。
きっと。
で、171ページ
自己革新組織とは絶えず自ら不安定性を生み出し、そのプロセスの中で新たな自己創造を行い、飛躍的な大進化としての再創造と連続的で漸次的な小進化を逐次あるいは同時に行うダイナミックな組織なのである。このような視点から海兵隊の自己革新組織としての要件を考察してみたい。結論からいえば、その要件とは
1)存在理由への問いかけと生存領域の進化
2)独自能力・有効的集中を可能にする機能配置
3)「分化」と「統合」の極大化の組織
4)中核技能の学習と共有
5)人間=機械によるインテリジェントシステム
6)存在価値の体化
である。
いや、最近再確認したのですが、何かを考える時には要件の定義というのが非常に重要になるのですよね。
で、196ページ
最後に海兵隊という組織の自己革新のプロセスをまとめてみよう。組織進化論の「進化とは学習なり」という命題によれば、進化の本質とは新しい情報や知識の学習である。組織は外部環境へ適応するのに有用な情報や知識を選択・淘汰しながら生存していくというのである。しかしながら組織の自己革新は学習だけではできない。学習には絶えず過剰反応の危険が伴うからである。環境適応に有用であった知識のみを選択し、蓄積していくと「過去の成功体験への過剰適応」が起こり、新たな環境変化に適応できなくなるのである(『失敗の本質』)すなわち自己革新組織は主体的に新たな知識を想像しながら既存の知識を部分的に棄却あるいは再構築して自らの知識体系を革新していくのである。この意味で、知識創造こそが組織の自己革新の本質なのであり、新しい知の創造なくして自己の革新はありえないのである。
そうなんですよね。
日々是勉強なんですけれど、勉強ばかりはダメで、新しく鳥言えれた知識で、自分の今までの経験を一回ぶっこわすようなことをしなければだめなのよね。
そうしないと、集める情報自体に、自分の都合のよい方向にバイアスを掛けてしまったりするわけですよね。
で、203ページ
すべては進化する。しかし、組織の存在価値が正義・勇気・自由・愛など人間の普遍の価値に近づけば近づくほど、その変化の度合いは低いだろう。普遍の存在価値を堅持しつつ、機能的価値を革新し続けるのが、自己革新組織である。合衆国海兵隊は、そのような組織の一つの原型を示しているように思う。
いやはや、おっしゃるとおりだ。
この本は単行本ですが、ってか、新書ですが、とんでもない価値を持っていると思われます。
『失敗の本質』と合わせて読むと、両方の凄さが、両方共際立ちます。