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日本マーケティング史 生成・進展・変革の軌跡

著者:森田克徳
発売元:慶應義塾大学出版会

 

目次

序 課題,分析視角および手法,構成

第Ⅰ部 明治期後半以降第二次大戦前までの生成期のマーケティング
第1章 森永製菓−紙サック入り「ミルクキャラメル」
第2章 サントリー−「赤玉ポートワイン」・「サントリーウイスキー白札」

第Ⅱ部 第二次大戦後以降1970年代末までの進展期のマーケティング
第3章 サントリーウイスキーブームとビール事業への再進出
第4章 麒麟麦酒−「キリンビール
第5章 日清食品−「チキンラーメン」・「カップヌードル

第Ⅲ部 1980年代初頭以降の変革期のマーケティング
第6章 「外部環境」の変化とマーケティング戦略の転換
第7章 ダイエー−「売上至上拡大主義」と「コングロマーチャント(複合小売業)戦略」
第8章 イトーヨーカ堂−「単品管理」
第9章 花王−「アタック」
第10章 「外部環境」の激変とマーケティングの革新
第11章 アサヒビール−「フレッシュマネジメント」と「フォーカス戦略」
第12章 セブン-イレブン・ジャパン日清食品「有名店ラーメン」

参考文献 
あとがき
索引  

  

感想

 

この本、名作だ。世の中に溢れかえっているビジネス書、特に経営戦略系の本が束になってかかっても勝てない、そんな魅力がある。


この著者、今は静岡大学で教えているのね(ウィキペディア情報)。静岡大学じゃ、教えを請いに行けないので、本を読んで我慢しよう。

 

この本には明治維新直後から、つい最近までの、日本におけるマーケティング事例がぎっしりと詰められている。コトラー先生のような分厚い本ではないのですが、コトラー先生の著書のように、捨てる部分が一切ない内容となっております。

 

マーケティング史となっていますが、「マーケティング」の話だけでないのが、好感度大です。結局、マーケティングというのは、企業戦略の一部なので、戦略の一部だけを切り取って「どーだ!」とやったところで意味が無いのですよね。調査・企画・購買・生産・販売・顧客管理…すべてが有機的に絡み合っていて、そのなかにあってマーケティングははじめて輝き出すんですよね。

 

で、そんな調査・企画・購買・生産・販売・顧客管理…がきっちり含まれたお話ですが、どんなものが収録されているかというと

 

●森永製菓 紙サック入り「ミルクキャラメル」
サントリー 「赤玉ポートワイン」・「サントリーウイスキー白札」
サントリー ウイスキーブームとビール事業への再進出
麒麟麦酒 キリンビール
日清食品 「チキンラーメン」・「カップヌードル
ダイエー 「売上拡大至上主義」と「コングロマーチャント(複合小売業)戦略」
●イトーヨーカ堂 「単品管理」
花王 「アタック」
アサヒビール 「フレッシュマネジメント」と「フォーカス戦略」
セブン-イレブン・ジャパン日清食品 「有名ラーメン店」

 

それ「だけ」で1冊の本が書けそうな濃ゆい内容がまとめられているのが素敵ですね。


この本では「この本におけるマーケティングの定義はこうだ!」と定義しております。この姿勢、素晴らしい。だって、マーケティングの定義って、定まっていないからね。各専門家、各企業、各個人によって解釈が違う。その解釈が違う中、解釈の溝を埋めることなく「マーケティング論」を語るから、世の中変なことになっちゃうのですよね。

 

で、本書ではなんと言っているいるかというと、それは6ページ

 

当初、市場や流通を意味したマーケティングの概念は、時代の推移とともに変化し、研究者の数だけ概念規定があるなどとされるが、AMA(アメリマーケティング協会)の1985年の定義では、「個人や組織の目標を満足させる交換を生み出すために、アイディア、商品およびサービスにかんする既成概念形成、価格決定、販売促進、流通を計画し実行するプロセスである」。
本書では、「流通において企業が目標を達成するために、『商品力』を向上させ、売れる仕組みづくりを構築する諸活動」と位置づける。

・・・となっております。


朝ドラ『マッサン』でも話題になった鳥井信治郎サントリーですが、この会社、やっぱりすごいというのが、あちらコチラから読み取れます。そして、21世紀は「ソーシャルビジネス」だウンタラカンタラだと語られていますが、仕事に求める社会性というのはそれぞれ違うんだということも読み取れます。

 

それは39ページ

 

本格ウイスキー国産化は鳥居の宿願であった。鳥居には「貴重な外貨が舶来洋酒のためにむざむざと海外に流出していた。これをぜひ防ぎたい。それには舶来品もしのぐ優良品を創る以外にない」といった「洋酒報国」の精神があった。そしていま1つに農村との共存共栄という考え方があった。ぶどう酒もウイスキーも、大麦やぶどうを用いた農業製品であり、原料の穀類や果実の需要を増やすことが農村に繁栄をもたらすと確信していた。

 

鳥井信治郎が生きた時代、社会的意義というのは「お国のためになること」だったんだよね。今とは全く違うのですよ。この「今とは全く違う」前提を知らずに、当時の話を学んでしまうと、頓珍漢なことになるので、ダメなんだよね。

 

とはいえ、鳥井信治郎の考えには21世紀になっても通じるものがあるのです。それは45ページ

 

鳥居は、「赤玉ポートワイン」により、「高品質・高生産性」および「販売網の囲い込み」の重要性を学び具体化した。そのさい、「高品質」とは、サプライサイド、すなわち技術者の視点のみを重視したものではなく、あくまでも消費者に受け入れられ、その支持を得られるものでなければならないというものであった。

 

これ、超重要な考え方だよね。高品質とは「お客様」にとって、受け入れられるものでないとダメなんだよね。トゥーマッチじゃ、だめだし、「足りてる」ってサプライサイドが思っているだけじゃダメなんだよね。

 

で、鳥井信治郎の考え方は21世紀の今になってもしっかりサントリーには受け継がれているのですが、それがどのように受け継がれているのかが、わかるのが69ページ。

 

大量生産・大量販売による経済の高度成長が続くなか、ダイニング・キッチンに象徴される西洋式・近代的な生活様式の進展とともに従来になかったテレビや週刊誌などのマスメディアの発達は、新たな大衆文化の形成に多大な影響を及ぼした。こうした瞠目すべき「外部環境」の変化の劈頭に寿屋は真っ先にかつ巧みに乗じた。その主体的な役割を果たしなのは、第二期黄金時代を形成した宣伝部であった。開高健の発案により東京に移った宣伝部は、数々のキャッチ・コピーを案出ししてアンクル・トリスを登場させ、ラジオをはじめテレビCMを積極的に展開した。くわえて「ハイボール」の普及に務めるとともに『洋酒天国』を発刊してトリス・バーへの加盟する店舗増をあと押ししてトリス・ブームを創出した。

 

消費者の満足するポイントが変わったら、そのポイントに誘導して満足してもらえるような仕組みを整える。それが、サントリーの宣伝部だった、と。「サントリー、宣伝強いよね。やっぱ、サン・アドだよね。なにしろ直木賞作家を2人も出しているしね」なんて表面的なことだけを語られがちですが、そうじゃない、と。

 

宣伝というか、広告の凄さと、価値がまとめられている文章です。刻々と変化する消費者の満足ポイントを探り、その点に向けて消費者に負担を感じさせず誘導することが、広告宣伝の仕事なんですよ。きっと。


そして、この「消費者の満足ポイントを探る」行為の重要さをCUPNOODLEの父、安藤百福さんのセリフからも読み取れることができる。それは112ページ

 

他方、海外にもいち早く進出した。もともと「カップヌードル」はアメリカへの「チキンラーメン」の売込み商談の際に着想を得たことから、製品開発に着手した経験があったゆえ、日本国内でのいくつものハードルを乗り越える努力と平行して進出の準備をはじめていた。マーケティング・リサーチをしたほうがリスクロ軽減できるといった内外のアドバイスを受容して調査会社んい依頼した。30万ドルほどのアメリカでの起業資金は、あらかたこの調査に要した。ところが、その調査結果は、どのようにも解釈できる内容であり、有用とは判じ切れなかった。それゆえ、安藤は「自分で調べたほうが肌身に感じていいじゃないか」と考え、「自分でマネキンを雇って、通訳付きで、まずロスアンゼルスの方から東西南北に調べた。

 

ですよね。ですよね。高い金を出しても、全く見当違いな答えが出てくるレポートがあったりしますからね。なんで、全く見当違いになってしまっているのか?っていうと、それは、「なんのための調査か?」ということが忘れられ「調査のための調査」になってしまっているからなんですよね。

 

で、安藤百福さんというか、日清食品は他にナニをやったかというと、それが要約されたフレーズが会ったのは114ページ

 

かくして日清食品は、幾多の工夫と努力を蓄積して製品を開発するとともに製造工場を果敢に建設のうえ改良改善して「高品質高生産性」を継続して追求した。そして他方で総合商社への依存体制から特約店網の構築、そして刷新を経、チキンラーメン会の発足とともに営業支店・出張所の設立による販売網の囲い込みにいを注ぎ、テレビCMを主体とした広告宣伝を積極的に展開し継続したのであった。

 

変わり続ける外部要因と消費者の満足ポイントをキャッチし続け、それに対応できるように、ひたすら組織を変化させて来たわけですよね。まさに「強い者が生き残るのではなく、 賢い者が生き残るのでもなく、 変化できる者が生き残る」ですわね。

 

この変化をキャッチしたことによる凄さは、アサヒビール中興の祖・樋口さんのインタビューからも読み取れましたわ。それは207ページ

 

ワゴンR」が「カー・オブ・ザ・イヤー」を連続受賞できた理由を質問したさいに、スズキ自動車の鈴木修社長から「機能性」がポイントであると指摘された。そして「スーパーマーケットで買い物をした奥さんが、買い物袋を持ちながら、腰をかがめずに楽に車に乗れる。それが機能性なんだよ」と教えられ、一種の衝撃を覚えた。瀬戸は次のように述べている。
「実は当時、スーパードライの広告には、いまひとつインパクトがなかった。有名人やタレントを起用することは好感度やイメージを上げることには優れているかもしれないが、今の消費者はイメージよりも『機能性』を重視する。それならば、スーパードライの広告ポイントを『機能性』に絞り込めばいいのではないか。その夜、浜松から東京へ変える新幹線の中で、私はこの思いを強くした。

 

そうだった!それまでビールといえば、水着のおねえちゃんがビアジョッキ持っているイメージが強かった。それと経路と違うものとして、ペンギンが歌うCMのサントリー(歌っているのは松田聖子)があったけれど、それも一瞬だった。でも、スーパードライは違った。ビールなのにコクとキレと鮮度という「旨さ」と全く違う軸で攻めてきた。なんで、そんなことをしたのか?その理由はこれだったのですね。

 

で、このような商品を扱うお店の例としてダイエーとヨーカドーが紹介されているのです。流通の2強といったら今はイオンとセブン&アイですが、80年代はダイエーとヨーカドーだったんですよね。そしてダイエーとヨーカドーの売上高には大きな差があった。

 

なんでか?

 

それは、ダイエーは売上拡大至上主義、ヨーカドーは利益第一生存主義だから。

 

でも、21世紀に生き残っているのはヨーカドー(セブン&アイ)。ダイエーも消え、マイカルも、サティも、ニチイも、消えた。下の方にいた岡田屋(ジャスコ)が、その辺をまとめて全部飲み込んでいったからなんだけれどね。

 

なぜ、多くのライバルは消え去っていったのにヨーカドー(セブン&アイ)だけは生き残ったのか?その秘訣が書いてあるのが160ページ

 

イトーヨーカ堂では、このような状況を「時代の変化に対応しきれなかった構造的かつ全社的な病状」と把握し、業務遂行の手法などを含めた全社的な体制が、消費者の選好に適合しなくなった結果と分析した。そして、「荒天に準備せよ」のスローガンの下で、鈴木敏文常務取締役を中軸に業務改善プロジェクトチームをつくり、企業体質の改革に取り組むこととした。

 

まるで野村ID野球のような経営戦略ですね。どんな状況でも負けない野球。どんな経済状況でも利益をだす経営。好景気の時に売上が伸びても喜ばない。「荒天に準備せよ」で、不景気な時代に備える。そんなことをバブルの時代から徹底的にやっていたのですから、とんでもないことですよね。まさに、「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」ですわ。

 

で、そんなヨーカドー(セブン&アイ)の稼ぎ頭、セブン-イレブンの秘密も202ページにかかれています。それは

 

セブン-イレブン・ジャパンはいわば「効果効率共進主義」を継続し、「チーム・ロジスティックス」、「チーム・インフォメーション」、「チーム・マーチャンダイジング」からなる「ロジスティックス・マーケティング・システム」によって、スピードアップする消費選好の「加速度的沸騰−一次冷却化現象」に対応した。

 

ひたすら変わり続けているから生き残り続けていて、勝ち続けているのよね。

いや~すごい本に出会った。

 

 

日本マーケティング史―生成・進展・変革の軌跡

日本マーケティング史―生成・進展・変革の軌跡

 

タイトル:日本マーケティング史 生成・進展・変革の軌跡
著者:森田克徳
発売元:慶應義塾大学出版会
おすすめ度:☆☆☆☆☆(名作!)