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マラス 暴力に支配される少年たち

著者:工藤律子
発売元:集英社

 

目次

第1章 マラスの輪郭
第2章 カリスマ
第3章 マラスという敵
第4章 冒険少年
第5章 マラスの悲しみ
第6章 変革

 

感想

 

マラスとは中米ホンジュラスの若者ギャング集団のこと。アメリカ・ロサンゼルス西部のヒスパニックギャング集団が源流と言われているマラス。なぜに、アメリカのギャングが???という話になるのですが、2000年代初頭、カリフォルニアでは不良外国人を逮捕後、そのまま祖国にお繰り返していたのだとな。で、そんなアメリカから送り返されて来たギャング集団が、母国ホンジュラスでもギャング活動を行うようになってきたとな。

 

ここだけ切り取ると、アメリカの新自由経済が−とか、アベが−、ジミンガーと騒ぎ出しそうな方々が多いのですが、ことはそこまで単純ではない。
ホンジュラスを始めとした中米諸国には、凶悪な若者ギャング集団を生み出す素地が、最初からあったのだ。

 

腐敗しきった司法と政治。産業と言ったらバナナや珈琲のプランテーションくらいしかない。アメリカンドリームも、自己責任も、自助努力も、すべての言葉が虚しくなってしまうほどの貧困と、どうにもならない富の断絶。そしいぇ、形成されるスラムと、大都会。

 

そんな世界で大人はまともに子どもを育てることなどできず、子どもは大人を信頼することができず。もっとも身近な存在である親ですら、信頼出来ない子どもたちが、街にあふれて、ストリートチルドレンとなってしまう。

 

そういう世界で、組織に属することと、食料とお金を得ることができるギャング集団が、心地よく感じられないわけがない。

 

でも、当然ですが、ギャング集団が平和な世界なわけはない。

 

政府から徹底的に取り締まられ、敵対するギャング集団からは命を狙われる。

 

そういう状況に嫌気を感じた若者が、相対的に平和で安全なメキシコを目指し、さらに平和で安全なアメリカを目指す。

 

この悪循環は、ドナルド・トランプが言うように、メキシコとの国境に壁を築いたからと言って解決するものでもないわけで。

 

でも、本書には、小さいながらも解決する糸口が紹介されている。元大物ギャングで、現在は牧師として、刑務所に収監されているギャングたちに、聖書の教えを説いているアンジェロ。日本でも元ヤクザの牧師や、僧侶はいるけれど、それよりエグい世界でエグいことをやっていた人間が、神の僕となったわけです。

 

そして、そのアンジェロが悔い改めさせた若者や、ギャング集団から抜けだして、気質として平和に過ごしている若者も紹介されている。

 

ギャングから若者を救うのは、信頼できる大人と、頼れる仲間だということがよーく分かる。それがあっての、教育であって、仕事である、と。

 

まずは信頼できる・信頼されるという関係性を与えてあげて、それで教育を受けさせて、そして手に職をつけさせる。それが刑務所の中にならず、地域や、社会であることが重要なんだな、とおもう。

 

むろん、おむろん、家庭が一番重要なわけだ。

 

日本の場合、学校や、保育園に、幼稚園、塾や、児童会が、こういう存在にならなければ駄目なんだろうなと思うわ。

 

そういうことを感じてしまう1冊。

 

 

マラス 暴力に支配される少年たち

マラス 暴力に支配される少年たち