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特務機関長許斐氏利 風淅瀝として流水寒し

著者:牧久
発行元:ウェッジ

 

目次

序章 「許斐機関」との遭遇
第一章 許斐氏利終戦
第二章 博多の暴れん坊
第三章 テロとクーデターの時代
第四章 大化会と二・二六事件
第五章 中国大陸へ
第六章 上海許斐機関
第七章 日本陸軍の阿片工作
第八章 「大東亜戦争」とハノイ許斐機関
第九章 大歓楽郷「東京温泉」
終章 風淅瀝として流水寒し

 

感想

ギンザシックスの裏手に不思議な形をした建物と土地がある。やたらと細長いけれど、大きい建物。今は銀座ウォールビルと呼ばれている、地上12階地下4階のビルが建っている。ここにはその昔、「東京温泉」というトルコ風呂が建っていた。日本初のトルコ風呂、日本に初めてサウナが作られた場所である。この東京温泉の設立者が、この本の主人公の許斐氏利だ。

 

お!となると、この本はビジネス書か?なんて思ってしまうが、タイトルは「特務機関長」。特務機関=日本軍の特殊軍事組織をいい、諜報・宣撫工作・対反乱作戦などを占領地域、或いは作戦地域で行っていた組織。そこの長であったのが許斐氏利だ。

 

テロ組織、スパイ集団のトップが、終戦後、実業家として名を響かせる。

 

令和の時代にあって、太平洋戦争時代なんてはるか昔、戦争を体験したご老人も数は少なくなり、そんなご老人も、戦争中は子供だったような時代だ。

 

でも、東京温泉が作られたのは1951年。

 

むむむ。

 

リアルに戦争があった時代に、リアルに特務機関のトップで、ハノイや、上海で、様々な影の仕事を行っていた人間が、トルコ風呂を始めたというのだ。

 

それだけでも、結構えぐい話なのに、許斐機関を率いてテロ行為や、スパイ行為を行っていた、その話もエグい。

 

戦争というのはどんぱちどんぱち武器を持ってやり合うだけではない。相手側組織を中から崩壊させたり、戦争を支える民衆の気持ちを戦争反対に誘導したりと、そこまで含めて戦争なわけだ。そして、忘れてはいけないのは、戦争も、スパイ活動も、お金がなければ成り立たないということ。そのお金が国家予算から出ていたら「戦争の準備も、スパイ活動もやっているのね」とバレてしまうので、そんなお金も闇から調達しなければいけない。

 

その手段は阿片だ。

 

むむむ。

 

そんな阿片取引の話、歴史の教科書で習ったこともなければ、「こいつは日本政府を裏から支えるために、阿片と引きを大々的にやってました」って行われた東京裁判の話も、それほど大きく扱われることはない。

 

むむむ。

 

戦争という悲惨な出来事の裏には、もっともっとダークな世界が存在していたということだ。

 

そんなダークな世界のど真ん中を歩いてきたのが、許斐氏利

 

許斐氏利をとうして描かれる、表通りに伝わらない戦時中の話がエグい。

 

蒋介石との和平工作がほぼまとまっており、日中戦争が停戦直前の状況にまでなっていた。それを拒否したのが東条英機で、東条英機蒋介石との和平を提案した長勇は沖縄戦でその生命を終えた。

昭和初期に起きた様々なテロ。そのh原因は貧富の格差で、いま風に言うと社会主義的な思想を持つ人間が、腐敗一掃のために活動をしていた。そこに活動資金を提供していたのが徳川家最後の殿様と呼ばれていた徳川義親だった。そんな徳川義親の資金によって戦後に生まれたのが日本社会党でたった。

 

むむむ。

 

国のためなのか?民のためなのか?義のためなのか?組織のためなのか?

 

平和と経済発展の影に隠れてしまった、昭和の闇が浮かび上がる素敵な一冊。

 

特務機関長許斐氏利―風淅瀝として流水寒し

特務機関長許斐氏利―風淅瀝として流水寒し