目次
ポーランド分割の戦争
芬ソ戦争と沿バルチック三国の終焉
ノルウェー戦争
西部戦線異状なし
日本における軍国主義の跳梁
外交低迷時代の日本
失望をかった阿部内閣
帝国議会のささやかな抵抗
常識的な米内内閣
日支戦争以降の日ソ関係
アメリカの最終提案
日米開戦の幕切って落さる
日本緒戦に勝つ
アルカヂア会議
米英はドイツに迂回作戦をとる
ナチス・ドイツの新秩序
大東亜共栄圏の構想と実態
枢軸軍敗退の色濃し
中華民国と世界大戦
世界平和機構の問題
感想
元総理であり、元外交官である芦田均が、第二次大戦勃発前からの外交を取りまとめた手記。ものすごくよい。超良い。こうやって包括的に世界情勢を見なきゃダメなんだね、ということを教えてくれる1冊です。
超大作なので、上下巻に分かれております。上巻は1939年のポーランド分割戦争から東條内閣誕生までですな。
もうさ、日本のリベラル畑な方々って、「戦争。ダメ絶対」で思考停止になっちゃっているから、そういう方々に戦前の話や、戦中の話を聞いてもナニも真実を教えてくれないわけですよ。そして、残念なことに日本のリベラルな方々って、教育方面に多数存在しているから、そりゃ、日本の教育はおかしなことになるよなぁ。とくに、文系の教育ってダメなことになるよなぁ。。。。
と、バリバリ文系のぼくは思うわけですよ。バリバリ文系の方々は、こうやって様々な方向から情報を仕入れないとダメだね。間違いなく洗脳されて、ダメ人間になるね。
とくに、この本のような一次情報に近い書籍を読まないとダメだよなぁ。で、「この本の内容がおかしい」と思うようになったら、チャーチルとか、ルーズベルトとか、トルーマンの手記を読むんだよな。
絶対に、アベガ-ジミンガーと騒いているような方々の本ばかりを呼んじゃダメだということがわかる。いや、読むなとは言っていない。こういう本を読んで「ははは・・・」と感じるためには読むべきであるのよね。
で、内容の話。
「アベガ-ジミンガー」と騒いでいる方々にとっては、ヒトラーは好戦的で、戦争大好きな人間だということになっているわけで、そして、そんなヒトラーと同名を結んだ戦前の日本は同じ扱いを受けるわけなんだけれど、そうじゃないということがわかったりするのですわな。
それは、41ページ。
ヒトラーはさらに十月三日にベルリンの国会で演説して平和の提案をくり返し、英仏に対して戦う理由はないが、ヴェルサイユ会議で奪われた旧植民地は返還せられるべきであると述べた。
ヒトラーだって、その国力を考えたら、無尽蔵に戦争を行えるわけがないことを知っていた。だけれど、読みが甘かった。アメリカとか、イギリスに、ヨーロッパ大陸の出来事を仲裁してもらおうなんて思っていたのよね。
アメリカだって、イギリスだって、そんなことはしなかったわけだけれど。
そういう読みの甘さがたくさんあった。
そして、その読みの甘さは日本にもあった。日本は今で言う韓国のようにコウモリ外交を行っていたのですよ。アメリカ・イギリスの連合国側と、ドイツ・イタリアの枢軸国側と。連合国側から有利な条件を引き出そうとして、ドイツを利用するのだけれど、逆にドイツに利用されていくといったということが、この本を読むとよく分かる。
ドイツと同盟を結んだって、ヨーロッパの戦争とは距離をおいておきたかったのだけれど、そう行かなくなってしまった。ズルズルと引っ張られてしまった。まぁ、これは読みが甘いというよりも、日本政府と、帝国陸軍との仲の悪さというのもあるんだけれどね。
で、なんでそんなに仲が悪くなってしまったというか、軍部が暴走してしまった(ここに関しては「アベガ-ジミンガー」の方々と意見は一緒ですw)かというと、明治憲法に欠点があったからなわけですよ。憲法の欠点って修正しておかないと大変なことになるというのが、第二次大戦の最大の教訓だと思うんだけれど、そのへんは「アベガ-ジミンガー」の方々とは意見が相容れないんだよなぁ。
とはいっても、世の中の、主流と全く違うことを言っているかというと、そうでもない。
たとえば、74ページに
ことにヒトラー、ムッソリーニの現状打破論が勢いを得て来たことは日本の国内情勢に大きな波紋を投ずる結果となった。いわゆる「持つもの」と「持たざるもの」との抗争は、必然的に国際連盟機構を爆破するに至るものと見て、それらの思想的潮流が疑いもなく満州事変や太平洋戦争を惹き起こす一つの要因となったのである。
ある、これ。これは「なぜ、第二次世界大戦が起きたのか?」という現在の統一見解に近いものですよ。
あと、第十四章「日独伊三国軍事同盟の締結」の第一項にある「軍閥の走狗となった近衛松岡」とかもね。
しかしね、第十四章「日独伊三国軍事同盟の締結」第四項「帝国議会の翼賛会批判」とあるんだよね。大政翼賛会が近衛とか軍部とかが力づくで導入したように語られているのだけれど、そうじゃないってことが書かれている。無論オムロン、帝国議会が大政翼賛会を批判したということもね。
と、ここまでが上巻の感想。
そして、ここからが下巻の感想。
本書を読むと、戦争というのは外交交渉の一環であるということがよくわかります。いや、外交交渉じゃないな。交渉だな。国内、国外問わず、戦争というのは交渉の手段。ツールの1つ。決して目的じゃない。
それがよく分かる。
そして、つまるところ「戦争単体で戦争を考えては」ダメだということがよくわかりますわ。ダメ!絶対!で、絶対にやってはダメなんですが、戦争を脳裏の片隅に置きながら交渉事を行わないとダメだな、と。
そこで、はじめてリアリズムが生まれる、と。
まぁ、戦争が目の前、ど真正面にあっても、日本には全くリアリズムがなかった。だから、脳裏の片隅においておいても無理なんじゃね?という自己批判が出てきてしまうのですがね。
そんな本書は上巻の続き。ハル・ノートのやりとりから、太平洋戦争集結までのお話でございます。
そのハル・ノートを日本側は「アメリカの最後通告だ!」と判断して、一気に戦争に舵を切っていったんですけれど、アメリカ側にとっは「最後通告じゃ、ありませんわ」という状態だったことが、よくわかりますわ。
たとえば、29ページ。
アメリカのこの提案に述べられている極東の政治的、社会的秩序は、日本がこれまで夢見てきたものと真っ向から衝突するものであった。アメリカの構想は、相互の独立と安全を尊重し、相互に平等の立場で相接し、通称を行う秩序ある平等の諸国家間の国際的社会であった。ところが日本の構想は、日本が極東の安定的中心力となるのである。
多国間の安全保障でやっていきましょうよ、というのがアメリカのスタンス。いやいや、極東は日本に任せなさいよ、というのが日本のスタンス。
アメリカ許すまじ!って日本がなったらしいのだけれど、アメリカのスタンスは
それに対してアメリカ側のいうことは、日本が武力によって占領している地域を除いては、日本はいかなる地域の資源をも放棄するように要請されていないし、日本の独立はなんら脅かされるわけではない。日本の陸海空軍は依然として在置されるわけであった。日本が諸外国と通商する機会は回復されるはずであった。
で、あったと(31ページ)。まぁ、これだけを読むと「最後通告じゃなかろう」と思ってしまうのだけれど、それは21世紀に生きている人間だからなんでしょうな。当時の首相が「だよね」と思ってアメリカと交渉しても、軍部に殺されていたのでしょうから。そんな内部事情を考慮すると、最後通告になっちゃうのかしら、と。
しっかし、交渉も下手なら、未投資が超甘い中で、戦争をおっぱじめてしまったんだなぁ・・・という記述があっちこっちに出てくるのですよ。
たとえば、70ページ。
終戦後にアメリカの爆撃調査団が、我が国の資料に基づいて調査した書類によれば、日本の戦争計画の基礎判断は大体次のようなものだったといっている。
- ドイツがソ連に勝てば、北方からに脅威は心配がない
- イギリスは全く守勢の立場にあって、全戦争能力は英本土の守備にあてざるをえない
- 緒戦におけるアメリカの兵力、ことに空軍は劣勢であるから、日本はビルマ、スマトラ、ジャヴァ、ニューギニア、ビスマーク諸島、ギルバート諸島、マーシャル諸島、ウェーク島、千島を防衛線とする一定地域を占領しうる
- 中国はビルマ公路の遮断によって孤立せしめられ、和平を求めざるをえない
- アメリカは対英援助の必要と真珠湾の攻撃のため、一年半ないし二ヵ年は攻撃に出られない。その間に日本は前記防衛線を強化しうる
- この地域の防衛線によって敵の戦意を弱化せしめつつ、その間に各地域の戦略物資の開発により戦力の増強をはかる
- 連合国を失い、日本の頑強な抵抗にあって、アメリカは民主主義政治の弱点から、全力を上げた攻撃作戦はできず、結局当初の占領地域の相当部分を日本が保有することを認めて妥協するに至るであろう
なにこの、盆と正月とクリスマスが一緒にやってきてはじめて「勝てる」という条件はww こんな甘い見通しだったと知ってびっくりデスわ。
更に言うと、日本以外の国と地域、それこそ植民地だったフィリピンも、インドシナも「戦争は外交・内政の手段」という認識があったのに、日本には無かったのがびっくりデスよ。勝って兜の緒を締めよ、どころか、「どの条件をみたすと勝利なのかしら?」と思ってしまいますわ。
その記述が152ページ。
しかしながら、この経済面においてもまた日本は大きな誤謬を犯した。すなわち連合軍潜水艦作戦による海上輸送の破壊の結果、物資交流が全く計画の齟齬を来したのもさることながら、経済政策の本質からいって、印刷機によって際限なき発行を許された紙幣が各地を例外なくインフレーションの波に巻き込み、一切の経済秩序と計画とを全く水泡に帰せしめてしまったのである。
占領した後のこと、ナニも考えていないんだもんな。
ナニをもって、終戦なのか?の定義すらしていないで、戦争をおっぱじめてしまったんだなぁと、マジでびっくりデスわな。
そりゃ、ルーズベルトが死んだら、「戦争に勝った!」と思ってしまうわけですよ。戦国大名じゃないのに。
で、そんな本書には、(たぶん)正しい歴史が書かれている(と思われる)のですよ。
たとえば「ルーズベルトは日本が奇襲攻撃をかけるっていうのを知っていた」って都市伝説がありますが、これ、半分正解で、半分間違えということがわかった。
そんな記述は21ページにある。
スティムソンの手記によれば、「大統領は、日本人は元来警告なしに攻撃を始めることで有名であるから、アメリカはおそらく、目の前に迫った、十二月一日の月曜日あたりに攻撃を受ける可能性があると指摘して、いかにこれに対処すべきかを問題にした。当面の問題は、いかにして、アメリカに大きな危険をもたらすことなく、日本から進んで攻撃の最初の火ぶたを切らせるかということであった」(スティムソン日記、一九四一年十一月二十五日の項
もう、「日本=奇襲攻撃」ってイメージがあったのなw でも、残念。日付が違っていた。そして、場所もハワイだと思っていなかった(フィリピンとか、そっちだと予測していたらしい)。これは、「暗号が漏れていた」のじゃなくて、「日本はそういう国だと思われていた」ってことなんだよな。
あと、シベリア抑留の問題とかあるから、「ソ連は勝手に中立条約を破って満州に攻め込んできた」と、ずっと思っていたのですが、そうじゃなかった。
361ページ
一九四五年が明けても日本もドイツも戦況はますます窮迫を告げた。ことに三月以降になると、ソ連の大兵力がシベリア線を経て極東に輸送されれいる状況に容易ならぬ風雲を思わせた。その際、四月五日にソ連は日ソ中立条約の破棄を通告してきたのである。
ちゃんと、事前に「破棄しますよ~」と告知していた。これで「ソ連が悪い!」ってよく言えたもんだな、と思いますわ。
そんな歴史の真実を知るのに最高の本だね。中学生の夏の課題図書に持って来いだと思いますわ。
戦争を起こした日本のどまんなかにいた人間が、「なぜ、日本が戦争を起こしたのか?」を、一般読者にもわかるように、その事実をまとめた1冊です。
歴史的価値のある1冊ですよ。マジで。