WEB銭の読書やグラベルロードのメモなど

マンガ「グラゼニ」が大好きな、ウェブ系の何でも屋さんが綴る、仕事とか、読んだ本のこととか、日常とか、世の中に関する忘備録。

なぜ通販でかうのですか

著者:斉藤駿
発行元:集英社

 

 

なぜ通販でかうのですかのまとめ

通販生活」でおなじみのカタログハウス創業者である斉藤駿サンの本。本人はカタログ通販の秘訣と、小売りジャーナリズムの野望について書いていると思うのですが、ECサイトを運営する際のバイブルとしても、読むことができますよ。ECにしろ、カタログ通販にしろ、TV通販にしろ「実物を手に取って確認することができない状況で商品を販売する」ということに関しては同じなんですよね。商品写真と商品コピー(説明文)だけなにか?そこに、動画を一緒に紹介することができるのか? メタバースの世界になったって、どれだけVRが発達したって、「実物を手に取って確認することができない状況で商品を販売する」状況は変わらないわけです。ここでどうするのか?どうすればいいのか?やるべきことは、カタログ通販の時代から同じであったことを教えてくれます。

 

なぜ通販でかうのですかを読んだ理由

ECサイト運用の基本に立ち返りたかったので

 

なぜ通販でかうのですかで仕事にいかせるポイント

消費者がある商品の購入を決意するときに重要な要素となるのが、使用価値であるということ。「本当に使って良いものなのか?」と言うことを知るために、多くのユーザは購入前にレビューを参考にする。「じゃあ、うちのシアともレビューを載せよう」という話になるのですが、ちょっとストップ。商品の使われた背景がわからなければ、そのレビューはユーザーの心に響きません。逆に「レビューではこう書いてあったのに!」というクレームの元になることがあるので、要注意なのです。このようなレビュー(商品コメント)のキモを斉藤さんは「理論は未知であり、経験は既知だから。理論の不安より、経験の安心」「人は経験を媒介して理論を信用する」と語っています。これ、すごく重要。

 

なぜ通販でかうのですかの目次

第1章 玉蜀黍
第2章 ルームランナー
第3章 女性服
第4章 デロンギヒーター
第5章 ミーレの掃除機
第6章 メディカル枕
終章 コーヒー豆

 

なぜ通販でかうのですかの感想

一番最初、はじめのはじめにでてくる、この一文に著者である斉藤駿さんの考えがつまっている。

 

 

信販売とは、商品の現物を見せない、触らせないで売るビジネスだ。商品をコトバと写真に置き換えて売るわけだから、その気になれば、粗悪品を一流品のように語ったり見せたりもできる。

 

記事広告ということばとがいねんをつくりあげた斉藤さん。広告であっても、必要な情報であれば読者はコピーを読んでくれるという考えですね。この経験をしたことから”「時代の欲望を広告にして、目につくところに置く」ことの威力を実感した”と斉藤さんは語っています。これ、マーケティング的な言葉で語ると、ニーズの可視化ですよね。時代の欲望、つまり隠れていた時代のニーズを広告にしたことによって、一気にブームとなる、と。

 

これはマーケティングというか、商売の基本ですよね。こういう基本をビシッと教えてくれるのが本書。そして、歴史的なことも教えてくれるのが本書。歴史的なことと言えば、通信販売の歴史ですね。日本での成り立ち、アメリカでの成り立ちはもちろん、通販の認知のされ方の変化についても教えてくれます。

うさんくさいものだと思われていた通信販売が、世の中に認知され始めたのは1970年代。それまで「いかがわしい」「うさんくさい」と思われていた通販生活が認知されるようになったのは、世の中が情報化社会になったことと、世の中が豊かになり、商品が十分に市場に出回るようになったからだと、斉藤さんは言う。言われてみればそうですね。白黒テレビの普及率が94%を超えたのは1969年ですし、三種の神器や、新三種の神器という言葉が消えたのも1970年代でしたものね。何でも良いから揃えるのではなく、たくさんあるものから選ぶようになったのが、1970年代。そのような時代背景があったから、通信販売の認知が上がったのだそうな。

 

いやはや、さすがです。

これ以外にもEC運用について使えるな?というポイントとしては、コミュニケーション企画の立て方と、商品の独自性、ターゲットの考え方と、レビューの掲載(紹介)方法についてですね。

 

コミュニケーション企画の立て方でいうと「必需消費」と「選択消費」というコトバ。これは吉本隆明サンが作ったもの。前者は毎日の生活で必要なもの、後者はお金に余裕ができてから買うようなもの。アメリカの通信販売は「必需消費」が中心になって発達し、日本の通信販売は「選択消費」が中心になって発達したと、斉藤さんは説明します。21世紀のいま、これだけECが発達した時代にあって「必需消費」も「選択消費」もないだろうって気がしますが、そんなことはありません。自社で扱っている商品がどちらなのか?をしっかり定義することで、コミュニケーションの方法が変わってきますから。「必需消費」の商品であれば価格や、品質という点が重要になってきます。「選択消費」では、付加価値が重要になってきますからね。

 

斉藤さんは「カタログ通販で売れるのは、街のお店では入手しにくい商品」と語ります。そんな都合良くオリジナル商品を扱うことなんてできないよ!と思うかもしれません。街のお店で販売されているのと同じ商品であっても、価格が1円でも違えば、アフターサービスや、保証内容が異なれば、それは「街のお店では入手しにくい商品」となるとのことです。そうでなければ、消費者は、わざわざ、送料を負担したり、配送時間を負担したりして、商品を買うことはないのです。近所のコンビニで買い物を済ませてしまうのです。なお、この「街のお店では入手しにくい商品」は価格設定や、ブランド価値だけから作られるものではありません。地域性(燕三条の包丁など)や、物語性(アマゾン料理人が作る~)によっても、作り上げることが可能となります。このようなことを踏まえると、コロナ禍によって日本中で誕生した小さなお店(企業)のECショップというのは「街のお店では入手しにくい商品」がラインナップされた世界だといえるのかもしれません。

 

「ペルソナ」や「カスタマージャーニー」なんて舶来コトバを聞いてしまうと、身構えてしまうあなたも「使用価値を自分の頭で考えてごらん」「買う人のイメージをきみの好きなように固めて売ってごらん」と話しかけられたらどうでしょう?ターゲットやペルソナ、カスタマージャーになんて考えるのではなく「買う人を特定する」というコトバだけで、問題は解決するのです。わざわざ難しく考える必要はないのです。

 

斉藤さんはある商品を売るときに、その商品の訴求対象者を一本の横線としてイメージするのだという。右から左へ、最濃色~中濃色~薄色~無色と徐々に色が消えていく横線を。そして、この色の濃さは消費者内部の欲望(需要)の大きさや、深さを表していると言います。このなかで、一番重要となってくるのが中濃色~薄色。商品の存在さえしれれば購入してくれる最濃色や、何をしても買ってくれない無色はターゲットから除外し、中間層である中濃色~薄色を狙って策を打つのが重要だと言います。消費者の心の中にある課題、消費者が気づいていない課題を上手に顕在化することが一番効果的になるのが、中濃色~薄色ということですね。

 

これ、カタログ通販全盛期に、カタログ通販のことを考えて書かれた本なのですが、そのままEC運用に使えるよな~って、何度読んでも思うのですよ。

 

 

タイトル:なぜ通販でかうのですか
著者:斉藤駿
発行元:集英社