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マンガ「グラゼニ」が大好きな、ウェブ系の何でも屋さんが綴る、仕事とか、読んだ本のこととか、日常とか、世の中に関する忘備録。

Tesco 顧客ロイヤルティ戦略

著者:C.ハンビィ/T.ハント/T.フィリップス
監訳:大竹佳憲
発行元:海文堂出版

 

まとめ

TESCOといえばイギリス最大手の小売企業。世界でも第10位(2017年度https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/jp/Documents/consumer-business/dis/jp-dis-gpr-2019-jap.pdf )でもね。そんなイギリスのチャンピオンも、90年代は、英国万年3位のような存在だったのだ。そこから世界ランカーに育ったわけですけれど、その武器が「ロイヤルティカード」だった。ポイントカードではなく、ロイヤルティカードね。日本でCRMを語るときに、よくTESCOが引き合いに出されるのだけれどTESCOが武器にしたのはポイントカードではない。そして、値引きでも、ポイント還元でもない。この本を読んで、そこに気がつくかどーかが、分かれ道ですな。

 

この本を読んだ理由

本書を読むのは2回目。CRMや、カスタマーサクセスが熱く語られるようになった時代だからこそ、読み直してみました。

 

仕事に活かせるポイント

ポイントカードと、ロイヤルティカードの違い。ここの整理こそが、仕事に活かせるポイントですな。

 

目次

Chapter 1 ロイヤルティへの疑問
Chapter 2 ロイヤルティは割に合うか?
Chapter 3 クラブカードの試行
Chapter 4 クラブカードの全国展開
Chapter 5 クラブカードの戦い
Chapter 6 ああ、愛しきデータ
Chapter 7 年4回のクリスマス
Chapter 8 クラブカード・マガジンの発行
Chapter 9 顧客のセグメンテーション
Chapter 10 ライフスタイルが習慣になる
Chapter 11 銀行業への参入
Chapter 12 サブクラブから学んだもの
Chapter 13 クラブカードDeals
Chapter 14 インターネット・ショッピング
Chapter 15 未来への5つの挑戦

 

感想

日本のポイントカードは大きく次の3種類に分類できる。①値引きの先送り②疑似貨幣化③顧客データの収集手段。本来であれば③を目指したいのだけれど、③は出口戦略=活用戦略がないと使えないので、ほとんどが①と②になってしまっている。TESCOは①も②も行っていなくはないが、メインは③なのである。なにしろTESCOは「高く積み上げて、安く売る」をモットーとしていたスーパーで、そこから抜け出したいためにロイヤルティカードを生み出したのだから。

 

顧客データを収集し、そこから「本当に顧客が必要とする商品や、サービス」を生み出すことで、Sainsbury'sや、Asdaというライバルと差別化を図り、今の地位を獲得するに至ったと。そもそも値引きを目的にしたポイント施策なんて、ポイントシステムの維持管理が重くのしかかるから、あまり意味が無いんだよね。価格に対する制約が強すぎて、かんたんに値引きができないのでポイントというのならわかるけれど。

 

そう考えると、ポイントありきの日本のロイヤルティ施策は、うまくいかないよな、と思ってしまう。

 

ちなみにTESCOのミッション・ステート・メントは「顧客の生涯のロイヤルティを得るために、顧客のために価値を創造せよ」なんだよね。顧客の価値を想像するための、インプット情報を得るための手段としてロイヤルティカードを利用していると。顧客のつなぎとめ、囲い込みのために使っているのではない、と。

 

そもそも顧客を囲い込もうと言う考えがおこがましい。それくらいの話が、本書の冒頭で出てきます。いろんなお店で顧客は買い物をする。その際、自分のお店に来たとき、他のお店よりも快適なサービスを提供できるようにする。これが。ロイヤルティ工場のために必要だという。

 

TESCOの戦略を、この本の骨格を意味するロイヤルティをKPMGは次の③つに分けて分類している。

①「純粋な」ロイヤルティ・・・顧客と小売業者の間の既存の結びつきを強化することを意味する。
②「pull」ロイヤルティ・・・小売業者が提案を増加させることによって顧客を引き寄せることを意味する。
③「push」ロイヤルティ・・・新しいチャネルを通じたり、新しい購買行動の型を作ることを試みたりといった、我々がかつて行っていなかった買い物のやり方を促進することを意味する。

TESCOのロイヤルティカード、TESCOクラブカードはこの①〜③の機能を併せ持っているという。KPMGは、他にも面白いことをいっていて、ウォルマート的な値引き商法をpurge(下剤)商法というのだとな。

 

クラブカードで顧客行動を収集し続けるTESCO。行動データを提供してくれた顧客に返すのは「ありがとう」という気持ち。どこかの居酒屋チェーンのようだが、クラブカードの存在自体が「ありがとう」なのだとTerry Laehyは言っている。もちろん、クーポンを配ったり、金券を配ることもしているが、メインは顧客データを分析して、最適なサービスや、商品を開発し、最適な価格で提供することなのだ。

 

日本のポイントカード施策が、いまいちうまく行っていないのは、この観点が抜けているからなんだろうな。顧客を囲い込むことを目的とし、値引きの先送りの手段としている。そこから製品や、サービスの開発につなげようとしない。逆に言うと、そこまでやらなければ成功しない。MAツールが大ブームで、MAツールへの投資を回収するために「ロイヤルティシナリオ」何かをよくやっているけれど、セグメントに合わせてメールを送るだけじゃ、何も生まれない。お金だけが出ていくだけですよ。

 

最後に。

MAツールの運用を考える上で外すことができないセグメントに対する考え方ですけれど、このセグメントという考え方はTESCOクラブカード施策を考える上でも外せない考え方なのだ。

 

そんなTESCOにおけるセグメントの考え方、シンプルで、再現性が高くて、わかりやすくて、すてき。

 

①セグメントは特定可能でなければならない
②セグメントは実行可能でなければならない
③セグメントは特徴的でなければならない

 

セグメントをこねくり回している、最近のMAコンサルタントに聞かせてあげたいですね。

 

そして、最近のMAコンサルタントがよく使う「one to oneマーケティング」に対しても痛烈なコメントが。

 

これは全く実行可能ではない。マーケティング・コストが利益に比べて重すぎるからである。

 

 

費用対効果を考えろよ、と。

購入するところまで、コンバージョンを考えろよ、と。

おっしゃるとおりでございます。