著者:熊谷博子
発行元:中央公論社
まとめ
我々は誰かの犠牲の上に成り立っている。そんなことに気がつかされる本と、労働者問題で2種類の怒りが湧き上がってくる本。1つの怒りは労働者を搾取する資本家であり、大企業。これは、よくある話で、よくある怒りだ。そして、もう1つの怒りは、そんな労働者を自身の主義主張のために利用しようとする左翼活動家だ。そして、この構図は三池炭鉱が栄えていた時代も、福島第一原子力発電所が栄えていた時代も同じだ。
この本を読んだ理由
輝かしい昭和の陰に隠れた時代を調べることをライフワークとしているわたしとしては、そりゃ、読んでしまいますよね。
仕事に活かせるポイント
上司や会社が、社員を搾取してはいけないということと、社員にちゃんとした知識を身につけさせないとだめだってことだな。地獄への道は善意で舗装されているのだ。悪意は笑顔で近づいてくるのだ。
目次
プロローグ 古くて新鮮な物語
第一部 「負の遺産」って何なのさ! 三池というまちで
第二部 地の底のジグソーパズル 三池闘争から現代へ
第三部 巨大企業への一刺し 事故を抱きしめる女たち
第四部 炭鉱に埋められた歴史
第五部 炭都シンフォニー
エピローグ 三池の女と夕張の女
感想
日本の近代化を支えた、巨大炭鉱、それが三井三池炭鉱。日本の近代化を支えた遺産ということで、世界遺産にも登録されている。「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」としてね。そんな近代化を支えた炭鉱には、未来に向かっていた輝かしい時代だけでなく、その未来を支えていた悲しい現実があった。ということもなんとなく知っていた。
しかし、それはなんとなくだったんだね、ということがこの本を読んで知った。
江戸時代から存在している炭鉱で、その後、日本政府から三井財閥に払い下げられた。というのは知っていたし、そこで囚人が石炭を採掘していたのも知っていたけれど、あまりにも残酷すぎるので囚人による採掘が禁じだれていく中、三池炭鉱が最後まで囚人採掘を行っていたとは知らなかった。南国の島々、与論島の農民や、朝鮮半島や、中国大陸から労働者を確保していたというのも知っていたけれど、日本中から食い詰めた貧民を労働者として確保していたというのも知っていたけれど、そんな労働者が、資本家から搾取されていたことも知っていたけれど。。。
読み進めるうちにどんどんどんどん、怒りがわいてくる。
それは、資本家に対してだけではない。
搾取されている労働者をたきつけ、労働活動の兵隊として動員しようとした、左翼活動家に対しては、資本会場の怒りを覚えてきた。
みんな、平和に、幸せに、生活したかっただけじゃないか。イデオロギーも、政治的主張も関係ないんだよ。
イデオロギーか、生活か。
その選択を迫り、後者を選ぼうとすることを許さない、活動家にはすごい怒りが覚えてしまう。
そして、この構図は原発でも同じだよ、というのが筆者の主張。国の政策が石炭から石油、原子力に変わっていく中、炭鉱の労働者も、石炭から、石油コンビナート、原発のプラントと、仕事を変えていった。仕事は変えていったけれど、仕事の中身は同じだった。危険な仕事を「危険だよ」と伝えずに、やらせていくという。
わたしは、地球温暖化対策のために、原子力発電推進の立場ですが、危険な仕事を「危険だよ」と伝えずに、やらせ、使い捨てにしていく思想には、著者と同じように怒りを覚えますな。たぶん、信じるイデオロギーも、主義主張も真逆だと思うけれど。
と、怒りをこのように覚える一方で、「炭鉱、すごいな」と素直に感じてしまった。石炭鉱山、2001年まで日本に存在していたのね。それどころか、まだ、釧路コールマインという日本唯一の坑内掘石炭生産会社があるのね。閉山した太平洋炭礦を引き継いだのね。
日本の炭鉱についてもいろいろと調べたくなってきましたな。