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マンガ「グラゼニ」が大好きな、ウェブ系の何でも屋さんが綴る、仕事とか、読んだ本のこととか、日常とか、世の中に関する忘備録。

『洋酒天国』とその時代

著者:小玉武
発行元:筑摩書房

 

まとめ

洋酒天国』といえば、サントリーが誇るPR誌。メンズマガジンの先駆けと言われていた雑誌。トリスバーや、サントリーバーで手に入れることができたノベルティ開高健や、山口瞳柳原良平など一線級のクリエイターにより作り上げられていた。そして、サントリーのサの字も出てこない雑誌を十年近く世に送り出し、芥川賞作家を二人も排出した編集部を維持してきたのは、なにはおいても佐治敬三のおかげげあった、と。時計の針がぐぐっと進み、世の中、オウンドメディアブームですかか、ここまで気持ちを込めた世界を作り上げる気概を持った会社は、果たしてあるのでしょうか?

 

この本を読んだ目的

オウンドメディアオウンドメディアと世の中うるさいので、元祖オウンドメディアと言っても良い『洋酒天国』、その秘密をしりたかったから。やっぱ、軽い気持ちでメディアを立ち上げてばだめなんだな。

 

目次

プロローグ 伝説の雑誌『洋酒天国
第一章 その水脈から
第二章 佐治敬三が創刊した『ホームサイエンス』
第三章 開高健の〈雑誌狂〉時代
第四章 山口瞳と『洋酒天国』綺譚
第五章 柳原良平と「アンクルトリス」の軌跡
第六章 植草神位置世代の登場
第七章 薩摩治八郎のパリ・浅草伝説
第八章 埴谷雄高の酔虎伝
第九章 山本集合と間門園
第十章 酒場文化の復権
エピローグ 昭和三十年代、企業文化の覚醒

 

感想

仕事がら、最近、また、よく耳にするオウンドメディアという単語。オウンドってなんだよ、メディアってほど気合入っているのかよ、と元出版業界で編集とかディスクとか編集とかやっていたので、思ってしまうわけですよ。

 

不思議な副業サイトの流行で一文字1円以下の単価で原稿らしきものを書くライターさんの誕生でメディアサイトのクオリティは下がりまくるしね。そして、クライアントは「ライターの単価が安いから、メディアも安くできるんでしょ?」なんて言い出すしね。

 

そんな時代だからこそ、思い浮かべるのがサントリーが出版していた『洋酒天国』だ。「料理天国」になると、TV番組になるので要注意ね。

 

同時代に大人気であった『暮しの手帖』と同じく、広告は一切掲載せずに、骨太の編集方針が貫かれていた雑誌。サントリーの一社提供で作られていたTV番組のように、サントリーが『洋酒天国』のお財布を支えていた。

 

サントリーが金を出しているのに、サントリーのサの字も出てこない雑誌。「ニューヨーカー」や「エクスワイアー」「プレイボーイ」のエッセンスが詰まっていた雑誌。

 

だけど、目的はサントリーのPR。

 

いや、違うな。洋酒を、ウイスキーを、カッコよく飲む文化を広めたかったんだな。

 

そんな文化方面に舵を全開に切れたのは、親分が佐治敬三だったから。佐治敬三のお眼鏡に叶い、集められた編集者は凄腕の人間ばかりだ。開高健に、山口瞳。あとにも先にもこんなに能力を持った人間を二人も揃えていた編集部は他にない。

 

開高健、わたし、大好きな作家です。まだまだ、開高健に関する研究は浅いですが。

 

作家として超一流だった開高健が、編集者としてもずば抜けていた理由を、本書では石原慎太郎のコメントを流用して紹介している。

 

開高健の特質はそれ(主題を作品に取り込む手段)をいつも自らの肉体感覚で濾過していたことで、それは作家の姿勢以前に作家が優れた肉体感覚を保有してなければできることではない。もっお平たくいえば彼は大方の作家たちの観念に対する感覚とでもいおうか、ようするにただの頭でっかちの訳しらずとは違って、自分の舌や目を使ってものの味わいの分かるにんげんだったということである。

 

あゝ、グーグル先生で検索しただけで知った気になる人が多い21世紀に耳にすると、痛い言葉ですな。

 

そう、こういう人間を中心に据えなければオウンドメディアは成功しないのよね。

 

 

『洋酒天国』とその時代 (ちくま文庫)

『洋酒天国』とその時代 (ちくま文庫)