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戦う商人 中内功 ダイエーは何を目指したのか

著者:小林雅章
発行元:岩波書店

 

目次


プロローグ 辞表
1 ジャングル,飢餓・闇市
2 日本型スーパーマーケット創業
3 規制との闘い,メーカーとの戦い
4 日本一の小売業
5 臨時教育審議会委員になって
6 気にかかること
7 流通科学大学
8 SKHとドーム球場と宴の後
9 日本型GMSの土台が崩れてゆく
10 諫言・辞表,そしてダイエー崩壊
エピローグ 旅のおわり

 

感想

日本の流通小売業界には伝説的な人物が何人もいる。コンビニというインフラを作り上げた鈴木敏夫さん。セゾン文化圏を作り上げた堤清二さん。現在、日本のトップであるイオン帝国を作り上げた岡田卓也さん。そんなイオンのライバルであるイトーヨーカドーを北千住からスタートさせた伊藤雅俊さん。そして、ダイエーを誕生させた、中内功さん。

 

本書はそんな中内功さん仕え、そしてダイエーを追われていった小林雅章さん。小林雅章さんは、元暮しの手帖の編集者で、伝説的な編集者であった花森安治さんに仕えていた人物。

 

花森安治さんといえば消費者視点の商品ジャーナリズムで情報を届けた人物。中内功さんはエブリデーロープライス、良い品をどんどん安くで消費革命を起こした人物。どちらも、視点が消費者だったんだよな。そこに著者は共感していたということが、行間から読み取れる。

 

そして、よくいわれるように中内功さんの原体験は、第二次大戦中、フィリピンで経験した飢餓体験。美味しい食べ物が手頃な値段で購入することができて、そしてお腹を満たすことができること。戦争みたいなバカなことを二度と起こさないような社会にすること。この思いが、中内功さんがダイエーを生み出し、育て上げる原動力になったんだろうな。

 

社会と消費者のためであれば、従来の商慣行を破壊することを厭わない、中内さん。そりゃ、あっちこっちで軋轢を生み出すわけで、松下電器の創業者である松下幸之助さんとは、生涯のライバルであったと、語られるわけですよ。

 

新しいものを生み出して、新しい仕組みを作り上げる。戦後すぐの時代、少なくとも昭和40年まで、流通小売、いわゆるスーパーマーケットというのは、いまで言うベンチャー企業だったわけですよ。破壊と想像。そうやって、時代を切り開いていったわけですね。

 

で、そんな本書の中で、一番刺さった箇所はここ。ダイエーというベンチャー企業が、松下や東芝花王や、資生堂という老舗メーカーや、三越のような老舗百貨店とバチバチやり合うために、現場のリーダーに求めていたこと。

 

ハードな未来に対処するためには、自らが常にソフトでなければならない。硬直化を排し、あらゆる場合に疑ってみなければならない。事故の上に立つ大地ですら動いていることを忘れてはならない。「それでも地球は動く」ーこの精神こそ一歩前進を可能にするものである。
我々は疑い、迷い、そして決断、決定しなければならない。決断、決定のためにこそマネージャーが必要となる。
このためには、マネージャーは膨大な情報量を蓄積しなければならない。ことに、過去の知的生産の蓄積を活用する方法を知らねばならない。「よく読み」「よく書き」「よく考え」ねばならない。その中から、創造的な工夫が生まれ、「よりよい方法」の発見が可能になる。「よりよい方法」は現場で実験され効果を立証され、技術として定着し、さらには、現場とのギャップを生ずることから、新技術開発への妖精を生み出すことになる。 

 

この考え、時代や、業種が違っても、使える真理でありますな。

 

 

闘う商人 中内功――ダイエーは何を目指したのか

闘う商人 中内功――ダイエーは何を目指したのか