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最強のデータ分析組織 なぜ大阪ガスは成功したのか?

著者:河本薫
発行元:日経BP

 

目次

◆第1章 ビジネスアナリシスセンターの実像
1.1 組織構成と役割
 データ分析の専門家は一つの側面に過ぎない
1.2 会社への貢献
 意思決定プロセスを改革するのが仕事
1.3 十八年の長い道のり
 現場に相手にされなかった苦難の時代

◆第2章 四種類の「人の壁」を乗り越える
2.1 乗り越える壁(その一)
 事業部門との連携が成功の絶対条件
2.2 乗り越える壁(その二)
 会社全体に貢献してこそ評価される
2.3 乗り越える壁(その三)
 メンバーの能力だけでなくマインドも育てる
2.4 乗り越える壁(その四)
 メンバーのモチベーションを保つ

◆第3章 事業部門から信頼と予算を勝ち取る
3.1 スポンサーシップ制度
 事業部門から予算をもらう独立採算制
3.2 分析者の守備範囲
 データ分析で終わらず「業務改革」まで立ち会う
3.3 人手不足を外部委託で補う
 自分で解くことのこだわりは捨てた

◆第4章 分析組織は経営に必ず貢献できる
4.1 全方位外交が基本
 全組織と仕事ができる利点を生かす
4.2 経営者の視点で分析に臨む
 環境変化を敏感に捉える習慣を付ける
4.3 成果をアピールする
 自分たちの貢献度をリーダーがPR

◆第5章 メンバーの幸福を勝ち取る
5.1 成長の道筋を示す
 ステップアップの青写真を描く
5.2 成長できる仕事をアサイ
 一気通貫で任せる覚悟がリーダーには必要
5.3 サラリーマンとしての幸せ
 個人のブランド価値を高める

◆第6章 十八年かけて築いた三つの無形財産
6.1 私たちのミッション
 メンバーの心に根づいて行動が変わる
6.2 カルチャーを消さない
 役立つことに価値を置く文化を守る
6.3 レピュテーションを獲得
 社内からの信頼が最大の財産

◆第7章 分析組織のリーダーに求められるもの
7.1 モチベーションの維持は大仕事
 データ分析の価値を生みだすのは人
7.2 挑戦する新分野はリーダーが決める
 ビジョンメイキングと率先垂範
7.3 人脈と知名度と評判
 リーダーのコネでメンバーを助ける
7.4 分析組織のタクティクス
 目的は清く、進め方は腹黒く

 

感想

著者は大阪ガス情報通信部ビジネスアナリシスセンター所長。2013年日経情報ストラテジーが選出する「データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤー」の初代受賞者。ビッグデータブームのときの時の人ですね。

 

そんな河本さんの本ですから、分析の話がバリバリ出てくると思いきや、そんな分析の話は殆どでてこないで、組織論と仕事の話ばかり出ています。「なんだよ~分析のTipsが知りたかったのに~」と、もし、アナタが思ったのであれば、アナタはアナリストではなく、オペレーターですね、ということです。

 

分析というのは手段にしか過ぎないわけですよね。出てきた分析結果を業務に反映して、そして、改善という効果がでて、はじめて「分析してよかった」になるのですよね。Rや、SPSSSASをぶん回して「こんなモデルができました」では、だめだと。そんなの分析屋さんの分析にすぎないですよねっていう話です。

 

河本さんも、「業務生かして、はじめて分析だ!」と思っているようで、下記のように、その思いを記しています。

 

分析結果の報告で終わらせず、業務改革につなげて成果を出さなければ、「私たちは事業部門から全く評価されない」と思うようになりました。そして分析結果を業務に活用できるように、事業部門の担当者をフォローし続けるようにしました。しかしながら、事業部門の担当者をせっつくだけでは、分析結果を使ってもらえません。業務に活用してもらえない理由を冷静に考え、どうしたら克服できるかをメンバーと真剣に議論しました。思いついたら行動に移し、少しずつ勝率(着手したデータ分析のうち、業務改革までつながる割合)を上げていきました。そうこうしているうちに、単なる分析で終わってしまって意思決定に活用されない理由と、そうならずに業務改革までつながる行動規範のようなものが見えてきました。

 

河本さんも熱意を込めて、この文章を書いていますが、学生時代から分析をずっとやってきました、それも学問としてという人に、この考えを理解させるのがすげー難しいんですよね。「ワタシが行った分析結果を業務に反映するのは、アナタの仕事です」ってオーラバリバリ出してきますからね。下手したら、そのままズバリ言ってくる人もいるww

 

まーそういうアナリストの人には、「アナタの分析結果は使えねーんだよ」ってことを優しい言葉で伝えるのですがね。

正しく分析したところで、まともな分析結果が出てきたところで、それが業務に使えないなんてことは、すごいたくさんあることなんですよ。だいたい、何も考えずに分析を依頼してくる人って「ビールとおむつ」的なことを期待するのですが、「ビールとおむつ」の例をみんな知っている、逆に「ビールとおむつ」の例しか知らないってことは、そんな驚くような分析結果って出てこないってことなんですよね。

 

ちなみに、使えない分析結果を河本さんは3種類に分類しております。
これも、すごく共感できます。

 

意思決定に活用されるデータ分析とは、データ分析から得られた結果を手がかりとして使うことで、それを使わない場合に比べて合理的な意思決定を行えて、それを使わない場合よりも望ましい帰結を得ることです。当初はそうならずに、単なる分析で終わってしまう失敗が多かったわけです。そうした失敗には、三つのレベルがあることがわかってきました。
(1)意思決定に役立たない
(2)意思決定に役立つが使えない
(3)意思決定に使えるのに現場に拒否される 

 

この辺の話を含めて、河本さんは分析業務をこのようにまとめているのですよね。

 

私たちにとってデータ分析は、問題を徳「手段」に過ぎません。問題を徳だけでは知見は得られても、「価値」は生まれません。データ分析で得られた知見をビジネスの現場で役立ててられてはじめて、価値が生まれるのです。 

 

で、そのためには、社内コンサルタントである必要があると。

 

私たちのような間接部門の立場で新たなデータ分析に着手する場合、対象となる事業部門の業務課題について事前知識は全くありません。そうしたゼロの状態から、データ分析で業務に役立つには、現場担当者へのヒアリングで業務を理解し、プロセスや費用対効果などの観点から業務プロセスを見直して、問題の所在を突き止める力を持っていなければなりません。社内で私たちはデータ分析者とみなされるだけでなく、「社内コンサルタント」として見られることもあります。 

 

そりゃ、Rや、PythonSPSSに、SASが使えることは素晴らしいですよ。使えるに越したことはない。でもそれらのツールは、やはりツールなのですよ。ツールを使って何をやるのか?その定義が何よりも重要になってくるという。そして、インハウスで分析をするのであれば、ただ単に分析をするだけではなく、分析結果を業務に反映できるような組織づくりが何よりも重要になってくるという。

 

河本さんが作り上げた大阪ガス情報通信部ビジネスアナリシスセンター。そのセンターには明確なミッションが定義されているという。

 

私たちのミッションが意味することは「業務改善は事業部門にでもできる。しかしイノベーション(業務改革)は事業部門だけでは難しい。データと分析力に強いビジネスアナリシスセンターが事業部門を手助けすることで、イノベーションを一緒に実現する」のです。私の心にはいつもの世継ぎのような気持ちが宿っています。

(1)私たちの仕事は社内にイノベーション(業務改革)をおこすこと

(2)データと分析力は手段に過ぎない。

(3)どれだけ素晴らしいイノベーションを考えても、現場が採用してくれなかったら無意味

(4)どういうイノベーションをおこすのか、どうやって現場(人)を動かすのかに知恵を絞る

(5)成果はイノベーションの中身でなく、イノベーションの結果のみ 

 

うちの部署も、ちゃんと定義をしなければな。
そう思う中間管理職のワタシでした。

 

 

最強のデータ分析組織 なぜ大阪ガスは成功したのか

最強のデータ分析組織 なぜ大阪ガスは成功したのか