著者:ジョシュア・グリーン
訳者:秋山勝
発行元:草思社
目次
はじめに その男、バノン
第一章 大統領選投票日
第二章 トランプの屈辱
第三章 バノンの足跡
第四章 危険な世界観
第五章 国境の「壁」
感想
トランプ大統領の側近で元首席戦略官。上級顧問としての権限は首席補佐官に匹敵するという。
そんなバノンとトランプとの関係性に迫った本。
個人的には「なんで、大方の予想を裏切ってトランプが大統領になれたのか?」「一般メディアが、なぜにここまで予想を外したのか?」を知りたかったわけです。
で、キーになるのは「経済ナショナリズム」なんじゃないかと。
国家による経済活動の管理を重視する政策や、それを支持するイデオロギーの1つ。 輸入関税や労働力・物品・資本に規制をかけてでも、国内経済での労働・資本形成についての安定を重視することですね。
で、アメリカの経済力というは、中国にどんどんどんどんと奪い取られており、近い将来に、中国が世界経済を牛耳るようになってしまうと。そして、中国の歴史というのは「蛮族の管理」の歴史なので、世界経済のトップに中国が立てば、アメリカは中国にひれ伏さなければいけなくなる、と。
だから、アメリカはNo1でなければならないと。だから、アメリカの経済力は中国に負けてはいけないと。
ここがやはり注目ポイントなんだろうな。
「我が世の春」は50年代だった。そこを頂点にして、経済力が落ち続ける。いや、落ちるったって、まだまだトップなんだけれどね。でも、そんな言い訳は通じない。「奥さまは魔女のような世界は、もう無いじゃないか!」と、突っ込まれそうな勢いで、
「Always 3丁目の夕日」の世界がリアルで、あの頃の日本は、間違いなく今よりも良かったと勘違いしている人と同じですね。
世の中の矛盾や、不幸な出来事を、その全てとは言わなくても、かなりの割合を他人のせいにしている人が多かったということなのでしょうな。
大統領になりたかったトランプが、「なんかおかしくね?」と世の中に不満を感じていたトランプが、バノンの経済ナショナリズムにハマったってことなんでしょうな。
でも、これだけじゃ、選挙に勝つことは出来ない。
そこで、バノンが目をつけたのがネットの世界なのである。
ネットの世界で「世の中の不満」をブツブツ言っているような人間たちを集めて、火をつけた、と。そんな不満を抱えている、「おとお子として声は間違ってるんじゃなかろうか??」とくすぶっている人間の自尊心をくすぐって、一気にトランプ支持に持ってきた、と。
それがいわゆるオルタナ右翼と言われているそうなのですと。
まぁ、そうやって世論の追い風を作り、大統領にまで上り詰めたトランプと、その参謀だったバノンだけれど、トランプと袂を分かってしまいましたとさ。バノンは自身の野望を実現するためにトランプを利用し、トランプも自身の野望を実現するためにバノンを利用したってことなのね。
過去の経済学者の叡智を全否定するような経済ナショナリズムは、逆にアメリカの経済力をそいでしまうんだろうな、と。ただ、リベラルに思いっきり世の中が向かい、ポリティカル・コレクトネスが強すぎる時代になってしまったからこそ、トランプのような人間が大統領になったんだろな、と。