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マンガ「グラゼニ」が大好きな、ウェブ系の何でも屋さんが綴る、仕事とか、読んだ本のこととか、日常とか、世の中に関する忘備録。

黒幕 巨大企業とマスコミがすがった「裏社会の案内人」

著者:伊藤博
発売元:小学館

目次

第1章 「黒幕」の誕生

第2章 マスコミを動かす、捜査権力を動かす

第3章 巨大企業の「守護神」として

第4章 「内調」「政治家」から「右翼」「暴力団」まで

 

感想

 

原俊介という人がいた。情報誌『現代産業情報』の発行人。ジャーナリストといえばジャーナリストであり、ライターといえばライターであるが、ぴったり当てはまる言葉がない。21世紀にはなかなかお目にかかれないというか、存在しないタイプの人間。敢えて言えば朝堂院大覚が同類かもしれないけれど、それは一部分でしか同類ではない。

 

政界、財界、官僚、マスコミ、闇世界・・・自分のポリシーだけを貫いて、それら世界を縦横無尽に移動し続けた石原俊介。その人に迫るドキュメンタリー。

 

とはいえ、この本を読んだのは「昭和の日本の闇世界を知りたかった」というわけではない。情報だけを武器に戦後の日本の裏表を自由に行き来した、その方法を知りたかったから。

 

そう、情報のプロが、どのように情報を扱っていたのか?を知りたかったから読んだのですよ。

 

原俊介すごいんですよ・・・という記述が溢れる中から、石原俊介が情報に対してどのように相対していたのかを拾っていくわけですが、本書の冒頭22ページに「そもそも石原が考える情報とは何か?」がきっちり記されているのですな。

それは

石原が世間的に無名だったのは、『現代産業情報』が、“プロ”だけが手に取る読み物だったからである。発行は月に2回で、購読料は法人12万円、個人3万6000円(年額)。高額なので一般の人は買わない。
では、誰なのか。第一勧銀の捜査展望をほしいのは第一勧銀であり、社長室がマスコミに隠し撮りをされた情報がほしいのはリクルートである。他にも、そうした情報を、喉から手が出るほど欲しいと思っていた人間や企業、団体は少なからずいた。「情報」の価値を知るものだけが購入していたのが石原の情報誌だった。

 

多くの情報がネット上で「無料」で手に入れることができる。そんなネットの時代ではナナカナ考えにくいですが、ネットの時代だって、お金を払わなければ上質な情報を手に入れることが出来ないのは同じですよ、と。

 

情報誌という形に近しい媒体は『FACTA』(これ、本書に出てきます!ラッキー)くらいしか無いですが、Foresightも似たようなものですし、ホリエモンや、藤沢数希、山本一郎が発行している有料メルマガだって、言ってみれば21世紀の情報誌ですわな。まぁ、購読していないからといって、会社の前に街宣車が来たりとか、1個1000円のおしぼりをダンボール単位で変えとかは言われませんが。

 

無論オムロン、ダメダメな有料サイトや、有料メルマガもあります。それは20世紀の情報誌だって同じです。1本20万円の観葉植物レンタルと同じ意味をもった情報誌のほうが多かったわけですから。『現代産業情報』はそうではなかったから、多くの人を惹きつけ、生き残ったわけですよ。

 

では、なぜ石原の『現代産業情報』にはそのような力があったのかというと、旧日興証券の和田優博乗務はこう語っているのです(53ページ)。

 

惹かれたのは人間観察の鋭さ。“その人間が持っている情報だけじゃなく、生活している環境や、思想・心情まで踏み込んでみなければ、その情報の持つ価値がわからない”という彼の意見は、広報マンとしても参考になった。

 

上っ面だけでなく、情報が持つ本質というか、情報を発信する人間の中身まで迫っていたから、『現代産業情報』のクォリティは高かったんでしょうね。これはWebの世界で情報を探すときにも応用できることですね。

 

日本の黒幕、フィクサーと呼ばれるような石原俊介。では、笹川良一のような金や、山口組組長・岡田一雄のような暴力装置を持っていたのかというと、そうではなかったと。情報だけが武器であった、と。

 

それを裏付けるのがリクルート事件時にリクルートの広報課長だった田中辰巳(リクルート事件後はリスク・マネジメント会社を立ち上げる)は次のように語っている(113ページ)。

 

石原さんに事件を左右する力はないし、マスコミ報道を止めることもありません。ただし、情報を収集し、分析し、それを発信する能力は格別でした。

と。

同じような話を元警察大学校校長で内閣情報調査室で働いていたこともある山崎裕人も、次のように語っている(228ページ)

 

石原さんのどこが凄かったか。石原さんは日々入ってくる膨大な情報を、頭のなかの無数の引き出しに仕分けして記憶していた。ある出来事が起こると、それに関連する情報を適切に取り出すセンスが卓越していた。それを元に、政局はどう動き、事件はどう展開し、経済はどうなるのかを正確に予測できる人でした。

 

と。

また、前述の田中は313ページのあとがきで

 

情報のプロには、収集力、分析力、発信力、機密力の4つが必要ですが、石原さんはどれもが卓越していました。

 

とも語っている。

 

ネットの普及と検索エンジンの発達で、無限の情報に簡単にアクセスできるように感じていますが、検索エンジン検索エンジンアルゴリズムでしか情報を探してきてはくれません。情報の探し方をGoogleにばかり頼っていると、Googleの思い通りに動く人間が出来上がってしまうわけです。分析力と発信力と機密力も同じです。BIや機械学習がどんなに簡単に使えるようになっても、ソーシャルがどんなに発達しても、セキュリティがどんなに向上しても、それに頼ってばかりでは、何も考えない人間が量産されるだけになってしまいます。

 

そうならないためにも、自分で情報を取りに行かなければ。金を払ってでも、必要な情報を取りに行かなければと思うわけですよ。そして、分析して、発信していこう、と。守るべき情報はちゃんと守ろう、と。

 

最後に。僕の重要な情報源でもあるFACTAに関する記述が288ページにあります。SFGCに関する章に出てくるのですが、FACTAの読者であるので、「あぁ・・・」と納得できることばかりです。

で、そんなFACTAがどのように紹介されているのかというと。

 

FACTA』発行人の阿部重夫は、元日本経済新聞記者で、退社後に会員制月刊誌『選択』の編集長を経て、2005年11月にファクタ出版を立ち上げた。阿部もまた、石原に連なる人脈である。新聞記者時代の1990年頃に知り合い、『現代産業情報』が持つ膨大な情報量に驚いた。それ以来「いい関係」を築き上げてきた。だが、振興銀報道で決定的に衝突。以降、石原が亡くなるまで顔を合わせることは出来なかった。

 

うむ。これからも、きっちりとFACTAを読んでいこう。

 

で、個人的に、21世紀の石原俊介ってFACTA阿部重夫ではなく、元切り込み隊長の山本一郎な気がしますわ。阿部重夫は第2の石原俊介。石原俊介のビジネスモデルといいますか、情報を分析して、その力で独自の地位を気づいていると言ったら、山本一郎ではないかと。