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昭和十七年の夏 幻の甲子園―戦時下の球児たち

著者:早坂隆
発売元:文藝春秋

目次

開会迄
満州のハーモニカ―京王商業vs.徳島商業(一回戦)
とある予科練生の憂鬱―水戸商業vs.滝川中学(一回戦)
応召した監督―敦賀商業vs.福岡工業(一回戦)
台湾から来たチーム―台北工業vs.海草中学(一回戦)
少年航空兵に憧れた主将―北海中学vs.広島商業(一回戦)
幻のホームラン―大分商業vs.仙台一中(一回戦)
海軍航空隊の現実―一宮中学vs.松本商業(一回戦)
戦時下の大記録―市岡中学vs.平安中学(一回戦)
シベリア抑留―水戸商業vs.徳島商業(二回戦)
撃沈―海草中学v.s.福岡工業(二回戦)
真の最多得点試合―仙台一中v.s.広島商業(二回戦)
焼け落ちた優勝旗―平安中学v.s.一宮中学(二回戦)
キノコ雲の下―広島商業v.s.平安中学(準決勝)
最後の熱戦―平安中学v.s.徳島商業(決勝線)
それぞれの青春と戦争―大会後

 

感想

 

戦前の野球といって出てくる名前は、沢村栄治に、スタルヒン。どちらも、戦争に人生を翻弄されてしまった選手として、有名です。しかし、この二人以外も、その野球人生を戦争に翻弄されているわけです。そんな戦争に翻弄された野球関係者、それも高校生にスポットを当てた1冊。

 

阪神甲子園球場を舞台に繰り広げられる高校野球。大正四年から開催されていた高校野球(戦前は学制の関係で中等野球と呼ばれていた)ですが、太平洋戦争がお個合われていた、昭和16年から昭和20年の間は開催が中止となっていたのでした。

 

そんな空白の5年間に甲子園球場で開催された高校野球の詳細に迫った1冊がほんしょ。

 

戦争が激しくなったために開催が見送られた、というのは理解しやすいのですが、なぜに昭和十七年だけ、開催されたのでしょうか? 正しくは高校野球が開催されたのではないのですね。甲子園で高校球児(当時は中等野球球児)が試合を行ったのですけれど、それは全国中等学校優勝野球大会として開催されたのではなく、文部省と大日本學徒體育振興會主催の〈昭和十七年度全国中等学校体育総力大会野球部〉として開催されたのですな。軍国主義教育の一貫として開催されたのですよ(なので、野球以外の容疑も行われたのだと)。そのため甲子園球場で試合が行われたにもかかわらず、正式開催ではなかったため、この昭和17年開催の情報は公式記録に残っていないのですわ。

 

戦争という単語があるだけで、思考停止になってしまう多くの人のおかげで、歴史の闇に葬り去られていた〈昭和十七年度全国中等学校体育総力大会野球部〉の話。それがこのような本になっていること自体が感動的ですが、それ以上に、本書に収められている書く試合のダイジェストと、各校有名選手のその後の話が、ヤバ過ぎる。

 

試合に勝つも負けるも運次第・・・といったところで、買っても負けても死ぬわけではない。でも、戦場では死んでしまう。運が悪ければ死んでしまう。その運は誰にもコントロール出来ない。いや、強い意志があれば生き残れるのかもしれない。そう、いろいろと考えてしまうわけなのですよ。

 

で、本書で紹介されているダイジェストは

 

(一回戦)
京王商業VS徳島商業
水戸商業VS滝川中学
敦賀商業VS福岡工業
台北工業VS海草中学
北海中学VS広島商業
大分商業VS仙台一中
一宮中学VS松本商業
市岡中学VS平安中学
(二回戦)
水戸商業VS徳島商業
海草中学VS福岡工業
仙台一中VS広島商業
平安中学VS一宮中学
(準決勝)
徳島商業VS海草中学
広島商業VS平安中学
(決勝戦
平安中学VS徳島商業

 

今の甲子園常連校の名前もありますね。そして、戦前だから日本の植民地であった「台湾」の学校も参加しているのですよ。時代が時代なので各都道府県1校ずつでもなければ、21世紀枠もないのですな。そして、新幹線もなければ、旅客機もない時代ですから阪神甲子園球場にたどり着くのが、とてもとても大変だったわけですわ。

 

その辺のエピソードが散りばめられているので、グイグイっと引き込まれるわけです。

 

 

昭和十七年の夏 幻の甲子園―戦時下の球児たち (文春文庫)

昭和十七年の夏 幻の甲子園―戦時下の球児たち (文春文庫)