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戦前日本の「グローバリズム」―一九三〇年代の教訓―

著者:井上寿一
発売元:新潮社

 

目次

I章 満州――見捨てられた荒野
II章 国際連盟脱退とその後――欧州を知る
III章 国内体制の模範を求めて
IV章 外交地平の拡大
V章 戦争と国際認識の変容

 

感想

 

サブタイトルは「1930年代の教訓」。


これだけ見ると、日本的リベラルな方々が「グンクツのアシオトガー」と騒ぎ出しそうですが、内容は大きく異なります。

 

この本には1930年代に日本が、目指していた外交と、世界が目指していた外交がしっかりと書かれています。

 

そして、政治や、官僚の暴走が日本を戦争に導いたのではないということもわかります。

 

1930年代の日本は通商自由の原則を掲げて、世界規模で経済外交を展開していた、と。地球の反対側にあるブラジルに日本人移民が多いのは、新たな土地に夢見た人が多かったからなだけではない。ブラジルにまでしっかりと貿易しにいっていたからである、と。南アフリカにも、カナダにも、日本は経済外交を仕掛けていた。

 

そして、満州にはアメリカ資本を呼び込もうとしていた、と。

 

で、そんな日本に対して、アメリカも、イギリスも、当初はそれほど大きな敵対心を抱いていなかった、と。そもそも、第一次世界大戦の時はブルーチームだったし、イギリスと同盟していたくらいだからね。

 

じゃあ、なんで最大の貿易相手国であったアメリカと戦争始めるに至ったかというと、そこは経済格差と国民の不満ですよ、と。

 

今以上の自由貿易をおこなっていた1930年代。今だって自由経済を推し進めると格差は拡大するのに、当時はセーフティネットゼロの状態で、自由経済をおしすすめた。

 

そりゃあ、格差は広がりますね。そして、世界恐慌。経済と国民の格差を埋めるために、各国が取った手段が計画経済。特にドイツはナチスが政権を取ってから、計画経済を一気に推し進め、国力を回復させて行った。

 

そういうドイツに共感した日本の政治家や、官僚がたくさんいた、ということですな。その中にはルーピーのご先祖様もおりました、と。

 

財閥と大企業だけが潤う自由経済と、格差を解消してくれそうな計画経済。日常の不満は軍隊が引き受けてくれて、軍隊にはいれば、自ら新たな国土を奪い取ることができる。

 

そりゃあ、不満にあふれる国民が支持するのは後者ですよ、と。

そんな国民の不満を煽り、「格差を是正するには、戦線拡大しかない!」とマスメディア騒ぎ立てる。

 

よくよく調べれば、英米以上に有色人種を見下しているドイツやイタリアと同盟して、自身にとって最大の貿易相手国であるアメリカと戦争をするなんて、ものすごく馬鹿なこと、とわかるのだけれどね。

 

こういながれが、今の日本とよく似ていると著者は語るわけですよ。

 

ものすごく良い本ですね。

 

 

戦前日本の「グローバリズム」 一九三〇年代の教訓 (新潮選書)

戦前日本の「グローバリズム」 一九三〇年代の教訓 (新潮選書)