著者:パトリック・キングスレー
訳者:藤原朝子
発売元:ダイヤモンド社
目次
プロローグ ハーシムの「旅」のはじまり
第1章 祝えなかった誕生日
第2章 その「荷」は生きている
第3章 魂の取引
第4章 屈辱からの出航
第5章 転覆か、救助か
第6章 ストレスだらけの「約束の地」
第7章 運命を司る「見えない線」
第8章 訪れた最後の試練
第9章 「門戸」を閉ざされて
第10章 世界に「居場所」を求めて
エピローグ そのあと起きたこと
感想
すごい本ですな。
もう、「生まれた場所や、育った国で、人生が決まってしまうようなことをしてはいけない」ということを痛烈に感じる本ですわ。とはいえ、1000万人くらいしか人口がいない国に100万人近くも、他の国の人々が流れ込んできたら、そりゃ、大変だよなぁ。ということもわかってくる。
ちなみに、サブタイトルは「人類につきつけられた21世紀最悪の難民」ですわ。
本の中身はシリアから北欧スウェーデンにまでたどり着いたシリア難民ハシームの移動をつぶさに記録したものなのですけれど、登場する難民はハシームだけではない。エリトアリアから、イラクから、アフガニスタンから、世界中の危険地帯から、故郷や家族を捨てて、安住の地を目指す人の姿が紹介されている。
で、昨年来、違法移民を不法入国させる密航業者が悪者だ!的な風潮が高まっているけれど、密航業者だって、不法移民の密入国を、不法入国を手助けして、そこでお金を稼がなければ、生活が立ち行かない人なわけで。
そして、出来る限り難民は受け入れるべきであると考えている北欧諸国だって、そこにはキャパシティがあって、そのキャパシティを超えてしまっては、すべてが破綻するわけで。
うむ。。。
アサドが弾圧と独裁をしていた時代のほうが平和だったんじゃないかしら?と思えてしまう。
でも、それだけが原因じゃない。
破綻国家、破滅国家ではなくとも、国民が弾圧され、未来が描けなければ、そりゃ難民は生まれるよね、と。
答えのない現実をつきつけられる1冊で、読後感はかなり複雑なものになってしまうのだけれど、やはり、平和と安定を生み出すのは教育と産業だよなぁ、とアタリマエのことを思ってしまうわけですわ。
本書の中に何度も出てきてくるけれど、国境を閉鎖しようと、国境に壁を作ろうと、流入する難民を止めることができないんだよなぁ。
だったら、流入する難民を、もっと受け入れつつもコントロールすることと、そもそも難民が生まれないようにすることが重要なんじゃないのか?と思ったりするわけですわ。
繰り返しますが、生まれた場所や、育った国で、人生が決まってしまうようなことをしてはいけないのですわ。